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セサル・アスピリクエタ ―世界一の主将―

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2012年夏、一人の選手がフランス・マルセイユからチェルシーに加入した。

スピードと攻撃力を武器とする若いスペイン人DF。

ポジションは右SBが主で、右SHの時もある。

約12億円という移籍金でやってきた選手こそが、セサル・アスピリクエタだった。

欧州一のチームへ

11-12シーズンにUEFAチャンピオンズリーグを制し、クラブ初となる欧州王者のタイトルを手にしたチェルシー。

翌年の補強でも注目を集めることとなる。

後にチェルシー、そしてプレミアリーグを代表するスターとなるエデン・アザール(現 レアル・マドリード)の獲得だ。

当時から既にその才覚は知れ渡っており、同年でのステップアップは既定路線だった。

しかし移籍先はマンチェスター2強が確実視されていた。

そのためチェルシーへの移籍は驚きと興奮をもって伝えられた。

移籍金も当時としては破格の約40億円。

アスピリクエタ同様、フランス・リーグアンのリールからの加入ということもあり、メディアの注目はそちらに集中した。

また既にセレソンでのデビューを果たし、こちらも欧州群雄が熱視線を送っていたオスカル(現 上海上港)の加入も同年。

アスピリクエタの移籍が大きく取り上げられることはなかった。

アザールは、11-12シーズンのイングランド・プレミアリーグ王者マンチェスター・シティ、2位のマンチェスター・ユナイテッドではなく、サッカー欧州チャンピオンズリーグ2011-12を制したチェルシーを選択した

AFP
アザール、チェルシーとの契約を表明

失意のシーズン

12-13を成功の年と語る者は少ない。

暫定監督ながらCLを獲得したロベルト・ディ・マッテオ(現フリー)から暫定の二文字が外れて迎えた新シーズン。

その数か月後には監督の二文字も外れていた。

新監督ラファエル・ベニテス(現 フリー)のもとでは、リーグ3位と復調、UEFAヨーロッパリーグのタイトルを獲得する。

しかしEL王者の称号は、前年のCLチャンピオンがGSで姿を消すという史上初の事態の結果だった。

そしてそのCL王者として臨んだクラブワールドカップでも苦汁をなめる。

南米王者コリンチャンスに敗れ、準優勝。

カッシオという名前を忘れられていないチェルシーサポーターも多いのではないだろうか。

 

アスピリクエタ自身もリーグ戦は27試合と出場機会を掴んだが、前述のCWC決勝ではわずかな時間の出場に終わるなど、大きな飛躍とはならなかった。

トップレベルの南米のチームと対戦できたのも良かったし、ほかの国で違う雰囲気の中でプレーできたことも今後の糧になる。

失望もしたが、いい材料を持ち帰って、今後につなげていきたい

ベニテス監督(当時)の試合後コメント
ベニテス監督「南米のチームは決勝になると目が覚める」=クラブW杯・コリンチャンス戦後、監督会見

ジョゼ・モウリーニョとの出会い

失意のシーズンの翌年、チェルシーに新監督としてジョゼ・モウリーニョ(現 ローマ監督)が迎えられた。

圧倒的な守備力を披露した第一次政権の再現を期待されたポルトガルの名将。

この出会いがアスピリクエタのキャリアを大きく変える。

 

モウリーニョはブラニスラフ・イバノビッチ(現 無所属)を右SBのファーストチョイスにしたため、アスピリクエタの出場機会は大きく減少。

このままベンチを温める1年になるかと思われたが、左SBアシュリー・コール(現 エヴァートンコーチ)のケガが転機となる。

それまで右サイドが主戦場だったアスピリクエタを、モウリーニョは左のSBにコンバートしたのだ。

安定したプレーでアザールの背後を任せられると、高い守備能力がここで開花する。

今でこそ守備職人のイメージが強いが、本格的に評価を高めたのはこの頃。

堅守の代名詞ともいえる指導者の下、個人で守る単騎守備能力、組織で守る戦術理解度が大きく向上。

衰えを見せていたとはいえ、第一次モウリーニョ政権で主力だったアシュリー・コールからポジションを奪取する。

 

その翌年にはアトレティコ・マドリードの躍進を支えたフィリペ・ルイス(現 フラメンゴ)が加入。

攻撃的な左SBの加入で立場が苦しくなるかと思われたのは束の間の話。

フィリペ・ルイスが適応に苦しんだこともあり、スタメンには常にアスピリクエタの名前があった。

その14-15シーズンにチェルシーはプレミアリーグとリーグ杯の2冠を達成した。

「アスピリクエタが11人いればCLで優勝できる」

ジョゼ・モウリーニョ監督(当時)

「鉄人」

15-16シーズンは受難のシーズンだった。

ジエゴ・コスタ(現アトレチコ・ミネイロ)やアザールの絶不調でチームは急落。

モウリーニョはチームを去り、前年王者はまさかの10位に終わった。

攻撃陣ではウィリアン(現 コリンチャンス)の奮闘が際立ったシーズンだったが、不安定な守備陣で唯一安定感を見せたのがアスピリクエタだった。

リーグ戦での出場試合数は自己最多となる37。

代表での活動も合わせると60試合近くに参戦した。

翌シーズンはアントニオ・コンテ(現 トッテナム監督)が就任するも、信頼と出場試合数は変わらぬまま。

以後は年50試合前後の公式戦をこなす、超ハードスケジュールが常態化した。

しかしそんな中でも、大きな怪我なく、常に水準以上のプレーを見せる。

果敢な上下動を繰り返すその姿には、いつしか鉄人の二つ名が囁かれるようになっていた。

アスピリクエタがこれほどまでピッチに立ち続けているという事実が称賛に値する。

負傷しない、警告(による出場停止)を受けないということがどれだけ大変なことか。

ピッチ上で彼が模範的な選手である証拠でもある

アントニオ・コンテ監督(当時)
コンテがリーグ戦全試合フル出場中のアスピリクエタを絶賛「どれだけ大変なことか」

最終ラインの番人へ

左右のSBとしてチェルシーを支えてきたアスピリクエタ。

驚異的な強さを誇る1vs1や、鋭いインターセプトを繰り出す読みといった個人能力の高さは言うまでもない。

しかしそうした個人技もさることながら、重用された来たのは高い戦術理解度にある。

 

16-17シーズンから指揮を執ったコンテは、3バックの右CBをアスピリクエタに託す。

3バックを得意とするコンテの就任時に、アスピリクエタはWBではないか、はたまたポジションを失うのではという声さえあった。

しかしコンテは、この誰も予想しえなかったこのコンバートでチームを連勝街道、そしてタイトルに導くのだった。

広いカバー範囲やウインガーとの1vs1はある程度計算が立つ部分もあったが、エアバトルでも強いと踏んだのは慧眼と言うべきか。

身長は178㎝とプレミアの選手の中では小柄に類される。

筋骨隆々という風体でもない。

しかし読みを利かせたポジショニングと狡猾なボディコントロール、そしてそれを支える体幹とメンタルの強さは空中でも変わらなかった。

また元が攻撃的な選手ということもあり、積極的な上がりから高精度のアーリークロスも披露。

右45度からのキックはコスタやアルバロ・モラタ(現 ユベントス)とのホットライン。

3バックの右としても抜群の評価と再びのトロフィーを手にした。

 

マウリツィオ・サッリ(現 ラツィオ監督)政権では久しぶりの右SBが主戦場。

一方でCBに怪我人が続出した影響もあり、シーズン終盤では4バックの2CBにも回される。

結果的にはこれもそつなくこなし、EL制覇に大きく貢献。

 

全監督からあらゆるポジションで信頼を掴む。

驚異的なユーティリティ性と、それを可能にする努力。

それがセサル・アスピリクエタのサッカー選手としての最大の特徴だ。

 

どんなチームでも、攻撃の選手がフォーカスされがちである。

SBやGKでさえも、攻撃力が評価されるようになって久しい。

それゆえ番人として最後を締めるアスピリクエタへの評価はなかなか上がりづらい。

しかしチェルシーを見続けているサポーターや解説者からの声は、常に賞賛のもので埋められている。

過小評価されている選手の特集では、常に名前が挙がっている。

ディフェンス面でミスをすることがなく、間違ったポジショニングもしない。

私は彼がミスをしているところを見たことがない

解説者 ギャリーネビル
G・ネビル氏とキャラガー氏がアスピリクエタを絶賛「プレミアでナンバーワン」

主将として

ジョン・テリー(現 チェルシーコーチ)やフランク・ランパード(現 エヴァートン監督)が偉大なキャプテンとしてチェルシーでは語り継がれる。

ギャリー・ケイヒル(現 ボーンマス)もまた、力強いプレーでタイトル獲得に貢献を果たした主将だ。

そのケイヒルが出番を失いつつあったコンテ2期目以降、アスピリクエタにその腕章が回ることが多くなった。

そして19-20シーズンからいよいよ正式に、チェルシーのキャプテンとして任命される。

これまでも副主将としてピッチ上でリーダーシップを取っていたが、いよいよ名実ともにチームを束ねる存在となった。

 

キャプテン就任後初のシーズンは、最も困難な船出となった。

補強禁止とエースの退団、若手主体のチームへとチェルシーは急激な変化を余儀なくされる。

プレミアリーグが初めてという選手も少なくない。

プレーやメンタルでも未熟な部分はいくつも出た。

それをまとめ上げる難しい役割をきっちりとこなせたのは、一重に彼の性格ゆえだろう。

かつてはピッチで共に戦ったランパードと共に、リーグ4位に滑り込む。

難局を乗り切れたのは目立たないながら、チームをまとめ切った主将の力が大きかった。

 

その後トーマス・トゥヘル現監督の下でもその立ち位置は変わらず。

新加入も増えた中で、チームの絶対的な支柱として奮闘した。

チェルシーでの試合数は400を超える。

これまでの全ての監督同様、トゥヘルも絶大な信頼を寄せる。

そしてトゥヘルのもと、チームは二度目となるCL王者に輝く。

誰よりも先にビッグイヤーを掲げたのは、今やチーム最古参となった男だった。

彼は素晴らしいキャプテンであり、素晴らしい選手であり、人間としても素晴らしい。

トーマス・トゥヘル監督
トゥヘル:アスピリクエタをコーチングできて光栄だ

衰えと世代交代の波

そんなアスピリクエタだが、寄る年波を感じるシーンも見られるようになってきた。

徐々にスピードで負ける場面や、技術レベルで後れを取ることも増えている。

今はリース・ジェームズが右WBとして、トレヴォ・チャロバーが右CBとして、ユース出身の若い二人が存在感を見せている。

途中出場や途中交代も増えてきた鉄人は、今年で33歳になる。

若返りを図ることも、チェルシーにとって必要なことだ。

 

アスピリクエタ個人としてはベンチの日々に満足ではないだろう。

しかしチームとしては幸運だった。

主将が健在のうちに若手へハードワークや職人的守備を伝えられたのだから。

運動量や1vs1で未熟だったジェームズは、今や90分にわたり攻守で制圧するWBに。

チャロバーの初ゴールは右45度から振りぬいたもの。

ここまでチェルシーを支えてきた主将とその足跡。

それは確かに若き才能たちへ引き継がれようとしている。

(アスピリクエタの存在は、あなたの成長にとって大きな助けとなっていますか?)

彼は何年もクラブに在籍していて、クラブの伝説的存在だ。

彼の前でプレーすることは素晴らしいことだし、彼が後ろにいるとやりやすい。

ピッチの上ではいつも安心してプレーできる。

シニアチームに入ったときから、いつも支え、助け、導いてくれたんだ。

リース・ジェームズ
10の質問 – リース・ジェイムズ

いつも頼りになる男

ここ数年衰えが指摘されるようになったアスピリクエタだったが、結局シーズン終盤はスタメンで出ていることが多い。

そして今季もその例に漏れない。

ジェームズ、チャロバーはケガで戦線を離脱。

致し方ない面も多分にあるとはいえ、まだ鉄人と呼ぶには遠そうである。

再びスタメンへと帰ってきた主将だったが、細かいミスが目立つ試合が続いた。

いよいよ限界かー。

それでも結局いつも思い出す。

どんな時でも、最後に頼りになるのはこの男だった。

 

格下に先制を許したFA杯4回戦では巧みなヒールショットを決め、勝ち抜けに大きく貢献。

どうやらまた手のひら返しをしないといけないようだった。

 

そしてチェルシーはUAEに向かう。

アスピリクエタはチェルシーの選手として最後のタイトルを、チェルシーにとっては最初のタイトルを手にするために。

コロナだったりケガ人だったりが続出しているため、今後は出番も増えそう。

というかここ数年、毎回この辺りから結局助けられている気がする。

21-22シーズン チェルシー中間報告

チームのために

10年前、新加入選手として出場し敗れた決勝戦。

今年も同じように苦しいものとなった。

先制直後に不運なPKで追いつかれると、南米王者パルメイラスの勢いはさらに加速。

防戦の時間も増えた。

延長に入ったがなかなかチャンスを作れない。

PK戦も見えてきた中でチームを救ったのは、やはりセサル・アスピリクエタだった。

果敢なシュートで獲得したPK。

117分、勝負を決めるゴールになりうるシーン。

名手ジョルジーニョやCFロメル・ルカクがベンチの中、託されたのはカイ・ハヴァーツ。

若きドイツ代表は極めて緊張していたことを試合後に認めている。

そこで動いたのがアスピリクエタだった。

自身が獲得したPK、ボールを掴みスポットに歩み寄る。

自分で蹴る雰囲気を出し、キーパーへ戸惑いを、ハヴァーツに時間を与えた。

PK獲得やこうした心理戦ではアシストはつかない。

しかしどんな時もチームのために縁の下を支え続けた男の、極めて彼らしいプレーだった。

衰えが見えている主将は結局120分フル出場。

決勝のPKと最後のタイトルを獲得した。

Very clever captain’s play by Azpilicueta. (非常にクレバーなアスピリクエタのプレー)

Held onto the ball and made Palmeiras think he was the pen taker, (ボールを抱え、パルメイラスにキッカーだと思わせた)

absorbed all their attempts to delay and get in his head, then gave the ball to Havertz(全ての遅延や妨害行為を引きつけ、それからハヴァーツにボールを渡した)

Liam Twomey(The Athletic記者)
Twitter

世界一の主将に

Sky Sports

10年前の忘れ物を取り返したチェルシー。

これで主要タイトルは全て獲得した。

私個人の思いとして強いのは、アスピリクエタがいる間に全てのタイトルを取れて良かったということである。

今季でセサル・アスピリクエタとの契約は満了。

延長交渉に動いているというが、バルセロナが既に話をまとめたという報道もある。

別れの時が来ることも、どうやら覚悟しておかないといけないようだ。

 

 

セサル・アスピリクエタは決して派手な選手ではない。

何十点も取るスコアラーではないし、派手なロングパスを繰り出す超現代型のDFでもない。

まして身体的に際立った特徴があるわけでも、強烈な我で話題をさらう人物でもない。

特筆すべきものは、サッカー選手としてはないのかもしれない。

しかしそれでも、いやそうだからこそ、アスピリクエタがみんな大好きなのだろう。

不断の努力が見えるからこそ、誰もが認める主将なのだ。

チェルシーは世界一のチームになったが、アスピリクエタは世界一のサッカー選手ではないだろう。

彼はチェルシーが誇る、そのサポーター皆が誇る、世界一のキャプテンというだけなのである。

まずチェルシーのキャプテンを務めること、ピッチ上そしてピッチ外で必要とされるすべてに関与できることを誇りに思う

アスピリクエタ 主将就任時のコメント
アスピリクエタ独占インタビュー後編:「難しい状況でベストを尽くした」

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